もちおの日記

NBA、映画、漫画好きですねぇ

『レイカー』になったドワイト・ハワード

かつてない激動のシーズンは無事に幕を閉じた。

本来ならば6月には終わっていたはずのNBAのシーズン。

今季はとても長く険しい道のりだった。

 

頂点に立ったのは10年ぶり、リーグ最多タイの17度目の優勝を飾ったロサンゼルス・レイカーズ

シーズン開幕前のレイカーズは現役最強レブロン・ジェームズとアンソニーデイビスの強力な二枚看板があるものの、他の大物FAを取り損ねたチームは“第3の矢”が不足した「寄せ集めの集団」のようにも感じられた。

 

 

レギュラーシーズンで勝ち星をしっかり重ね、オーランドで再開されたシーズン終了時にはウェスタン・カンファレンスの首位を確定させた。

しかし、レイカーズを応援していた私でさえ、心のどこかでロサンゼルス・クリッパーズミルウォーキー・バックスなど他の優勝候補のライバルたちには届かないのではないかと思っていた。

 

蓋を開けてみれば、フランク・ヴォーゲルHCの元、強く結束したレイカーズは頂点に立った。

私が懸念していた「寄せ集めの集団」は空中分解する事もなく、いつしか魅力溢れるファミリーに。

“第3の矢”には毎試合、誰かが顔を覗かせた。

日替わりでチームを大きく助ける個性的なロールプレイヤーたち。

マイアミ・ヒートとのNBAファイナルを制した第6戦での“第3の矢”は、ベンチから出場したラジョン・ロンドだろう。

 

ロンドといえば、2008年に同じくリーグ最多タイの17度目の優勝を達成したレイカーズのライバルチーム、ボストン・セルティックスの生え抜きガードだった。

今は亡きコービー・ブライアントと熾烈な戦いをしてきた彼が、同じくライバルだったレブロンとともにレイカーズでゴールド&パープルのユニフォームを纏い戦う姿を誰が想像できただろうか。

 

 

同じくコービー時代のライバルチームから加入した選手がいる。

ドワイト・ハワードだ。

彼はオーランド・マジックのスター選手だった2009年にNBAファイナルに進出し、コービー率いるレイカーズに敗れている。

2000年代のイースタン・カンファレンスで覇権を争っていたレブロン、ロンド、ハワードがレイカーズで優勝を成し遂げたドラマはいささか出来過ぎである。

 

そんなドワイト・ハワードは2012-13シーズンにもレイカーズに所属していた。

当時は今とは違う待遇であり、大スター選手として鳴り物入りでの加入だった。

コービーと共にレイカーズを優勝に導き、自身としても初となるチャンピオンリングを獲得するための大きな決断だった。

しかし結果は優勝争いどころではなく、ハワードを含め怪我人が続出したチームは、HCが解任され、コービーのアキレス腱断裂と引き換えにプレーオフに滑り込むこととなった。

そしてやっとの思いで辿り着いたプレーオフではサンアントニオ・スパーズ相手に完敗。

ハワードはそのオフに怪我をしたコービーを残し、チームを去った。

 

そこからハワードはレイカーズファンからは嫌われ者だ。

3連覇を成し遂げたシャキール・オニールとコービーのような最強デュオを期待したにも関わらず、不甲斐ない活躍でチームを去ったハワードを良く思う『レイカー』はいなかった。

 

その後ヒューストン・ロケッツで3シーズンプレーした後はチームを転々とすることになる。

マジック時代は現役最高のセンターとして君臨し、明るいキャラクターから人気も高く、毎年オールスターゲームの常連だった。

しかし移籍を繰り返しながら、次第にベンチを温めることが増え、かつての活躍を見せることはなくなった。

彼だけのせいではないのかもしれない。

リーグは全てのポジションに長距離からのシュート力を求めることになり、センターという存在が必要ではない場面が年々増えていった。

ハワードのような昔ながらのセンターはいつの間にか過去の遺物となり、排除される流れになる。

かつてスーパースターだった彼が減っていく自身の役割を受け入れることは、並大抵のことではなかったのではないだろうか。

 

ハワードのキャリアはもう終わったと誰もが思っていただろう。

 

今シーズン開幕前にレイカーズはセンターポジションの人手が不足していた。

デマーカス・カズンズの不運な大怪我もあり、センターの補強が最優先となる。

そこでハワードに白羽の矢が立った。

コービーと共にプレーした背番号「12」を「39」へと変更し、あの時と同じく優勝しか狙っていない、優勝以外は失敗とみなされるレイカーズの一員となったのだ。

 

今シーズンのハワードは一味違った。

ベンチからの出場も快く受け入れ、短いプレータイムの中でエネルギッシュにプレーした。

彼に求められているディフェンスとリバウンドという地味で泥臭い仕事を黙々とこなしたのだ。

昔のようにポストでボールをもらって得点を取りに行く場面は無くなった。

それでもベンチにいる時も明るく振る舞い、チームメイトの活躍を心から喜ぶ姿はレイカーズとの因縁を風化させるには充分だった。

 

前回レイカーズに所属していたときはコービーとの不仲説が流れていた。

実際にどうだったか分からない。

しかしハワードはコービーがアキレス腱を断裂したときに、すぐさま見舞いに駆けつけてツーショット写真をSNSにアップしていたのを覚えている。

当時はそれも不仲説を払拭するためのアピールだと言われていたが、今シーズン途中にコービーが亡くなった後、彼がコービーモデルのバッシュを履き続けてプレーするために、他のシューズメーカーとの契約を断っていたことがニュースになっていた。

契約金よりもコービーへの思いを取った彼の行動こそが全てなのかもしれない。

 

そんなハワードはプレーオフでもきっちりと自分の役割をこなした。

1回戦のポートランド・トレイルブレイザーズ戦ではベンチから出場し、相手の強力なセンター陣との熾烈なぶつかり合いを見せた。

セミファイナルのロケッツ戦では相手が極端なスモールラインナップのせいもあり、ほとんどプレータイムがなかった。

しかしそんな中腐らずにベンチで応援するのが今シーズンの彼だ。

同じくプレータイムのなかったセンターのジャベール・マギーとともにベンチで明るく振る舞う彼は今シーズンのレイカーズを象徴しているのかもしれない。

 

今季のレイカーズの強みは変幻自在なディフェンスだ。

相手がどんなラインナップでも対応できる。

しかしそれにはハワードのようにシリーズ通して出場時間がないまま、ベンチで過ごさねばならない選手が出てくる。

相手によってプレータイムが変わってくる選手個人がしっかりとその役割を受け入れなければ、今シーズンのレイカーズの強さはなかっただろう。

そんな中でも集中力、緊張感を切らさなかった彼は、続くカンファレンス・ファイナルのデンバー・ナゲッツ戦で存在感を発揮するのだ。

 

2009年以来のファイナル進出となったハワードはスタメンで試合に出場する。

しかしヒートの機動力に合わせてプレータイムは短かった。

優勝を決めた最終第6戦ではスタメンの座を若手のアレックス・カルーソに与えた。

そして、点差をつけてレイカーズの優勝が決まった残り時間1分ほどにハワードは出場し、キャリアを通してほとんど打たない3ポイントシュートを沈めるのだ。

これはこれで彼らしい、お茶目な今シーズンの締め括りかもしれない。

 

背番号「39」の彼は「12」の時よりも身体能力は衰えただろう。

それでも一回りも二回りも精神的に成長した彼は今シーズンのレイカーズに欠かせない存在になった。

7年の時を超えて、あの時コービーと一緒に獲得できなかったチャンピオンリングを手に入れたハワードは、やっと『レイカー』になれたのかもしれない。

 

オーランド・マジックでの輝かしい活躍は誰もが忘れないだろう。

しかし今シーズンのレイカーズでのハワードも皆の心に刻み込まれたのではないだろうか。